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外国人を雇用する企業の人事総務向けメールマガジン 2022年05月

メールマガジン 外国人を雇用する企業の人事総務向け
メールマガジン「人事・総務レポート」
2022年05月 Vol.160

1.人事・総務ニュース

「カスハラ」マニュアル公開 ~行為態様別に対応方法示す~

 厚労省は、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルを作成しました。

 

 マニュアルでは、事前の準備として、事業主の基本方針・基本姿勢の明確化と従業員への周知・啓発、従業員(被害者)のための相談体制整備、対応方法・手順の策定、社内対応ルールについての従業員等への教育・研修等に取り組むべきとしています。

 

 また実際に起きた際の対応として、事実関係の正確な確認と事案への対応、従業員への配慮の措置、再発防止のための取組等を提示しています。

 

 カスハラの行為態様として、時間拘束型、リピート型、暴言型、暴力型、威嚇・脅迫型、権威型、店舗外拘束型、SNS/インターネット上での誹謗中傷型、セクシュアルハラスメント型――の9つを挙げ、それぞれの対応方法を明記しています。

   

就業規則の周知を否定 ~ガラス張りの額縁に入れて掲示?~

 派遣会社でトラック運転者として働いていた労働者2人が未払い残業代の支払いなどを求めた裁判で、東京高等裁判所は「運行時間外手当」などを固定残業代と認めた一審判決を変更し、同社に計380万円の支払いを命じました。

 

 同社の就業規則には、出張手当を法定の最低限度で定められた深夜手当相当分として、運行時間外手当を時間外手当相当分として支給すると定めていました。一審は就業規則によって割増賃金としての性格が明示されているとして、両手当を固定残業代と認めていました。

 

 二審の東京高裁は、就業規則の周知が図られておらず、労働契約の内容にならないと指摘。通常の労働時間の賃金に当たるため、残業代が支払われていないと判断しました。

 

 同社は就業規則の周知について、ガラス張りの額縁に入れ、自宅兼事務所の壁にヒモで吊るして掛けていたなどと主張しました。

 

 同高裁は用紙にして45枚と「かなりの厚さのある就業規則を額縁に入れて壁に掲げるのは不自然」と主張を退けています。



従業員承継 ~後継者候補へ早期教育を 多様な役割任せ~

 中小企業庁は、5年ぶりに事業承継ガイドラインを改訂し、近年増加している「従業員承継」についての解説を充実させました。

 

 実際に従業員承継を実施した事業者へのヒアリングを基に、後継者の選定や育成プロセスなどのあり方について、事例を交えて紹介しています。

 

 また、従業員承継に先立つ後継者教育について、早い段階から着手することが必要としています。

 

 具体的に取り組むべき3つのポイントとして、①後継者候補に対し、経理、総務、営業や経営企画に至るまで幅広い業務を経験させる、②社内の重要プロジェクトの遂行に従事させる、③後継者塾や経営者会合などに参加させる――を挙げ、早期から選抜して育成を進めることで、後継者候補に事業の将来性や経営への理解を促し、役員や従業員などの関係者から信頼を得ることにもつながるとしました。



2.職場でありがちなトラブル事情

知らぬ間に有期社員に ~同条件で移籍のはずが~

 Aさんは、ゴルフ会社(B社)の整備部門で、長年、パートタイマーとして勤務していました。しかし、B社が整備業務を別会社(C社)に委託することになったため、再就職先を探すことになりました。


 新しい仕事にチャレンジしたい気持ちもあったのですが、これまでの経緯もあり、C社の面接を受けてみました。人事部長から「勤務先は変わるが、これまでと労働条件は同じ」と説明があったので、その場で入社の意向を告げました。


 ところが、入社1週間前に郵送されてきた労働条件通知書をみたところ、「3カ月の有期雇用契約」と記載されています。C社に電話し、話が違うと確認を求めたところ、「それでは、この件はなかったことに」と一方的に告げられ、会話は打ち切りとなりました。


 入社日直前に「はしごを外された」形のAさんは、紛争調整委員会によるあっせんを申請しました。

従業員の言い分

 面接時には、有期契約であるという説明は一切ありませんでした。トラブルはC社側の説明不足が原因なのに、内定取消という決定には納得がいきません。


 「従来と同じ労働条件」ということばを信じていたため、内定後は就職活動もストップしていました。当面の生活費として、給料2カ月分の補償を求めます。


事業主の言い分

 当社では、労働条件通知書は入社日に手渡しが原則ですが、郵送したのは早めに本人の手元に届くように配慮したまでです。対面で話すのを避けるといった意図はありませんでした。


 有期契約という点については、面接時に口頭で伝えていたはずです。B社から移籍した他のパートタイマーについても、すべて条件は同じです。


指導・助言の内容

 事業主に対しては、「事情はどうであれ、雇保加入の手続きは事業主として果たすべき責任であり、何らかの補償を行う必要がある」と説得しました。


 Aさんには、「教育訓練給付は、本人が講座を受講し、費用を支払って、初めて受給資格を得られる」という点を指摘し、未受講分の請求は撤回してもらいました。


結果

 会社が解決金15万円を支払うことで和解が成立し、合意文書作成となりました。



3.中小企業のがん対策調査 検診実施率は経営者の関心に比例

 厚労省の委託事業である「がん対策推進企業アクション」は、7946社の経営者から対面やオンライン形式で回答を聞き取り、中小企業におけるがん対策の調査報告をまとめました。



 がん検診の受診結果に関する対応を尋ねたところ、「従業員から報告を受け、『要精密検査』や『要再検査』の場合、受診勧奨をしている」との回答割合は57%に留まっています。


 このほか、「報告を受けているが、『要精密検査』や『要再検査』の場合、受診は本人任せ」は23%、「受診結果の管理や二次検診の受診は本人任せ」は20%でした。


 直近2年間で従業員に対してがん検診を実施していた企業は全体の40%でした。がん対策への関心について経営者が「大いに関心がある」「関心がある」と答えた企業ほど、従業員の検診状況はそれぞれ52%、44%と高く、調査報告では「中小企業のがん対策強化は、経営者への啓発こそ重要かつ優先度が高い」と結論付けています。




4.身近な労働法の解説 ~健康情報取扱規程の策定~

 労働安全衛生法104条3項に基づき、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための必要な指針(平30・9・7公示1号、令4・3・31公示2号)が公表されています。今回は、健康情報取扱規程の策定について解説します。


1.労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針

 事業場において、労働者が雇用管理において自身にとって不利益な取扱いを受けるという不安を抱くことなく、安心して産業医等による健康相談等を受けられるようにするとともに、事業者が必要な心身の状態の情報を収集して、労働者の健康確保措置を十全に行えるようにするためには、関係法令に則った上で、心身の状態の情報が適切に取り扱われることが必要です。


 そのためには、事業場における心身の状態の情報の適正な取扱いの明確化が必要です。指針では、心身の状態の情報の取扱いに関する原則を明らかにしつつ、事業者が策定すべき取扱規程の内容、策定の方法、運用等について定めています。


 また、指針で示す原則を踏まえて、事業場ごとに衛生委員会または安全衛生委員会を活用して労使関与の下で、その内容を検討して定め、その運用を図る必要があります。


2.心身の状態の情報の取扱いに関する原則(要旨)

 指針では、取扱いに関する原則を定めています。策定の参考にするとよいでしょう(詳細は指針参照)。


(1)心身の状態の情報を取り扱う目的

労働者の健康確保措置の実施や事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行が目的であり、そのために必要な心身の状態の情報を適正に収集し、活用する必要がある。


(2)取扱規程を定める目的

心身の状態の情報が、(1)の目的の範囲内で適正に使用され、事業者による労働者の健康確保措置が十全に行われるよう、事業者は、当該事業場における規程を定め、労使で共有することが必要である。


(3)取扱規程に定めるべき事項

身の状態の情報の適正管理の方法など、具体的には9項目が考えられる。


(4)取扱規程の策定の方法

衛生委員会等を活用して労使関与の下で検討し、策定したものを労働者と共有することが必要である。衛生委員会等の設置義務がない事業場(小規模事業場)は、必要に応じて安衛則23条の2で定める関係労働者の意見を聴く機会を活用する等により、労働者の意見を聴いた上で策定し共有することが必要。 規程を検討または策定する単位については、企業・事業場の実情を踏まえ、事業場単位ではなく、企業単位とすることも考えられる。


(5)心身の状態の情報の適正な取扱いのための体制の整備

心身の状態の情報の取扱いに当たっては、情報を適切に管理するための組織面、技術面等での措置を講じることが必要である。


(6)心身の状態の情報の収集に際しての本人同意の取得

取り扱う目的および取扱方法等について、労働者に周知した上で収集することが必要である。


(7)取扱規程の運用


(8)労働者に対する不利益な取扱いの防止

労働者の健康確保措置および民事上の安全配慮義務の履行に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。


(9)心身の状態の情報の取扱いの原則(情報の性質による分類)


(10)小規模事業場における取扱い

衛生推進者に取り扱わせる方法や、 規程に基づき適切に取り扱うことを条件に、取り扱う心身の状態の情報を制限せずに事業者自らが直接取り扱う方法等が考えられる。



5.実務に役立つQ&A

2人同時に受給? ~同じ家族へ介護休業で~

 ある従業員から、「配偶者の母が要介護状態になり現在は配偶者が介護しているが、2人で協力して進めたいことがあるため、介護休業を取得したい」という相談がありました。配偶者は介護休業給付を受給予定で、本人も取得を考えているようでしたが、同時に複数人が受給できるものなのでしょうか。


 介護休業給付は、要介護状態にある対象家族を介護するために休業した日について支給されます。対象家族に含まれるのは、被保険者の配偶者および父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫のほか、配偶者の父母も該当します(雇保法61条の4、雇保則101条の17)。


 同じ対象家族につき3回まで分割して取得可能で、上限は合計93日です。支給額は、休業開始時賃金日額の67%で、分割取得した場合は、休業開始時賃金日額が休業ごとに計算し直されます(雇用保険業務取扱要領)。


 ある対象家族について複数の被保険者が同時に介護休業を取得したとしても、各々が支給要件を満たせば、給付の受給が可能とされています(厚労省Q&A)。ご質問のように期間が被る場合のほか、たとえば本人が上限に達した後に配偶者が休業を開始するなど、被らない取り方も可能です。




6.外国人雇用関連ニュース ~出入国在留管理庁 令和4年4月6日報道発表資料~

新型コロナウイルス感染症に関して、これまで162の国・地域に滞在歴がある外国人を上陸拒否の対象としてきたところ、令和4年4月6日の新型コロナウイルス感染症対策本部による公表を受け、同月8日午前0時から、106の国・地域に滞在歴のある外国人を上陸拒否の対象から除外します。

 感染が世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症に関して、令和2年1月31日以降の累次にわたる閣議了解、新型コロナウイルス感染症対策本部による公表等を踏まえ、法務大臣は、当分の間、本邦への上陸申請日前14日以内に、162の国・地域に滞在歴がある外国人等について、特段の事情がない限り、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第5条第1項第14号に該当するものとして、上陸を拒否することとしています。


 令和4年4月6日の新型コロナウイルス感染症対策本部による公表を受け、法務大臣は、同月8日午前0時(日本時間)から、以下の106の国・地域について、上陸拒否対象地域の指定を解除し、当該国・地域に滞在歴のある外国人を上陸拒否の対象から除外することとします。

○上陸拒否対象地域の指定を解除する国・地域

 アイスランド、アイルランド、アゼルバイジャン、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、アルバニア、アンティグア・バーブーダ、アンドラ、イスラエル、イタリア、イラン、インド、インドネシア、ウズベキスタン、ウルグアイ、英国、エクアドル、エルサルバドル、オーストリア、オマーン、オランダ、カーボベルデ、ガイアナ、カザフスタン、カタール、カナダ、カンボジア、北マケドニア、キプロス、キューバ、ギリシャ、クウェート、クロアチア、コスタリカ、コソボ、コロンビア、サウジアラビア、サンマリノ、ジョージア、スイス、スウェーデン、スペイン、スリナム、スリランカ、スロベニア、セーシェル、セルビア、セントクリストファー・ネービス、タイ、タジキスタン、チェコ、チュニジア、チリ、デンマーク、ドイツ、ドミニカ共和国、ドミニカ国、トリニダード・トバゴ、トルコ、ニカラグア、ネパール、ノルウェー、バーレーン、パキスタン、バチカン、パナマ、バハマ、パラグアイ、バルバドス、ハンガリー、バングラデシュ、東ティモール、フィジー、フィリピン、フィンランド、ブータン、ブラジル、フランス、米国、ベネズエラ、ベリーズ、ペルー、ベルギー、ポーランド、ボツワナ、ボリビア、ポルトガル、ホンジュラス、マルタ、マレーシア、ミャンマー、メキシコ、モザンビーク、モーリシャス、モナコ、モルディブ、モロッコ、モンゴル、モンテネグロ、ヨルダン、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルーマニア、ルクセンブルク、ルワンダ

 これにより、同月8日午前0時(日本時間)から、上陸拒否の対象は56の国・地域となります。


 上陸拒否対象地域の指定解除の後も、既に実施済みの査証免除措置の停止措置及び発給済み査証の効力停止措置は継続されます。


 なお、上記の上陸拒否対象地域の指定を解除される106の国・地域のうち、アルバニア、エクアドル、カナダ、北マケドニア、セルビア、チリ、トルコ、パナマ、ブラジル、米国、ボリビア、モーリシャス、モロッコ、モンテネグロについては、これまで査証免除措置が継続されていましたが、上陸拒否対象地域の指定解除に伴い、これらの国々に対する査証免除措置は停止されます。また、これらの国々との間のAPEC・ビジネス・トラベル・カードに関する取決めに基づく査証免除措置の適用は停止されます。したがって、再入国の場合を除き、原則として、入国前に在外公館において査証の取得が必要です。


 特別永住者の方については、入管法第5条第1項の審査の対象となりませんので、上陸拒否対象地域に滞在歴がある場合でも、上陸が拒否されることはありません。



7.今月のコラム ~【知識が広がる】ウクライナ“難民”と“避難民”の違い~

 日本政府による「ウクライナ避難民」の受入れが大きく報道されています。しかし、平和な日本で生活する私たちが難民の受け入れについて深く知る機会はあまりありません。そこで、今回は“ウクライナ避難民”の受入れ方法を通して、日本の難民受け入れについてわかりやすく解説していきます。


1.世界の難民受け入れルール

 世界で最も広く活用されている難民に関するルールは「難民条約」です。第二次世界大戦が終結した際に大量に生じた難民を各国が同じ基準で対応するために設けられた条約です。これは大きく2つのルールから成り立ち、ひとつは1951年の「難民の地位に関する条約」、もうひとつは1967年の「難民の地位に関する議定書」で、これらを総称して「難民条約」と呼ばれています。


 1951年の「難民の地位に関する条約」では、大枠として2つのルールが定められました。まず“ノン・ルフールマン原則”と言われるもので、「難民を生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはいけない」というものです。次に「庇護申請国へ不法入国し、また不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない」というルールです。


 各国が協力して難民問題に取り組む画期的な条約でしたが、“このルールは1951年1月1日前に生じた事件しか対象としない”と定められていました。つまり、第二次世界大戦後の結果として難民となった人のみを対象とするため、その後の事情で難民となったケースには対応できませんでした。そこで、設けられたのが1967年の「難民の地位に関する議定書」で、これにより、「1951年以前に難民となった者だけでなく、条約の定義に該当することとなるすべての難民に等しい地位を与える」ことが決まりました。


 このように成立した「難民条約」ですが、実際に運用する場合には「どのような基準で難民認定するのか?」といった詳細な対応が求められます。このような課題に対応するため、難民の取り扱いに関する人道的基準などが多く定められています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が取りまとめている「難民認定基準ハンドブック」(難民の地位の認定の基準及び手続に関する手引き)などもその一つです。日本の難民認定は原則としてこのルールに基づいて行われています。


 また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、難民問題の解決策として以下の3点を示しており、各国はいずれかに沿った方針での対応を行っています。

①自主帰還…難民が出身国へ帰る方法
②庇護国社会への統合…難民が庇護を求めた国に定住する方法
③第三国定住…難民が庇護国から第三国へと移動し、そこで定住する方法


 現在では、ロシア、ウクライナも含めて世界で146か国がこの「難民条約」に加入しており、世界規模での難民受け入れルールと言っても過言ではありません。


2.日本の難民受け入れ方法

 日本での原則となる難民受け入れの方法は、「難民条約」に基づくものです。この場合、難民の方は条約難民と呼ばれ、自力で日本に渡航し出入国在留管理局で難民申請を行ないます。この際の審査は「難民条約」や(UNHCR)が示した「難民認定基準ハンドブック」を基に行われます。しかし、日本政府はこれ以外にも独自の受入方法を実施しています。


 まず、“インドシナ難民”の受入れです。これはベトナム戦争終結時のベトナム、ラオス、カンボジアなどでの新体制になじめない人々が難民となり、ボートピープルとして日本に到着したのが切っ掛けとなっています。当初は一時的な滞在のみ許可されていましたが、日本政府はその後に定住を認める方針に舵を取りました。条約難民に求められる“国際貢献”や“人道上の国際協力”に加えて、“アジアの安定のため”という新しい目的が定められたからです。多くの“インドシナ難民”がこの制度を利用して日本に逃れてきましたが、戦況が落ち着きはじめるとこの制度を悪用して出稼ぎ目的で難民申請する人が増加しました。そのため、現在では受け入れは停止されています。


 次に(UNHCR)が提唱する“第三国定住”での受け入れがあります。紛争当事国の近隣諸国などの難民キャンプで一時的な庇護を受けた難民を、新たに受け入れに合意した第三国に移動させる方法です。現在では多くのウクライナ難民がルーマニアに避難しましたが、そこでの受け入れが限界を迎えているという報道がなされています。このような庇護国の負担を国際社会で適正分配することが目的です。日本では“国際貢献”と“人道支援”の立場から実施されており、2010年にアジア諸国で初めてタイに滞在するミャンマー難民の受入れを開始しました。


 以上、日本では難民受入れ方法の原則として条約難民があり、それ以外にインドシナ難民、第三国定住が用いられています。



3.難民認定の流れ

 難民条約に基づく難民申請は、申請希望者が日本の出入国在留管理局で「難民認定申請書」を提出し、その内容に基づき難民調査官が調査を担当します。審査期間中は、原則としてA~Dまでの4つの案件に振り分けされ、申請内容に伴った対応がなされます。例えば、難民条約上の難民である可能性が高いと思われる案件や本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる申請は“A案件”とされ、就労が可能な6か月の在留資格「特定活動」がすぐに付与されます。一方、難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない申請は“B案件”とされ、在留資格の変更や更新なども認められません。


A案件 難民条約上の難民である可能性が高いと思われる案件
または、本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる案件
⇒「特定活動」(6月、就労可)を付与
B案件 難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件
⇒在留制限(在留資格の変更・更新不可)
C案件 再申請で正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件
 ⇒就労制限(在留は認めるが就労は認めない)
D案件 (1)本来の在留活動を行わなくなった後に申請した者
出国準備期間を付与された後に申請した者
 ⇒就労制限(在留は認めるが就労は認めない)
(2)人道配慮の必要性を検討する必要がある場合など
 ⇒「特定活動」(3月、就労不可)を付与
  更新が認められ6か月の滞在後は、「特定活動(6月、就労可)を付与。

 このような審査を経て難民認定が認められると「難民認定証明書」が交付されます。同時に在留資格「定住者」が付与され、国民年金・児童扶養手当・福祉手当・生活保護などの受給資格などの日本人とほぼ同等の保護が得られます。さらに、永住許可の要件緩和や自国のパスポートの発行ができない場合には“難民旅行証明書”も発行されます。


4.ウクライナ“難民”と“避難民”の違い

 2022年3月5日、ウクライナ避難民の20人が政府専用機に搭乗して初めて日本に到着しました。その後も、ポーランドからの直行便の座席を毎週確保することで受け入れを行っています。


 この場合の具体的な受け入れ方法としては、入国時に「短期滞在」(90日)を付与し、その後、希望者には「特定活動」(1年)への変更が実施されています。「特定活動」であれば在留カードが発行され、就労が可能となり、健康保険にも加入できます。もちろん、在留期限となる1年後には更新も可能とされています。


 当初は日本に親族などの身元保証人がいる方のみが対象でしたが、現在では身元保証人がいない人も含まれました。入国後は、身寄りがある人はすぐに自宅や知人宅に移動することが可能で、身寄りがない人は日本政府が準備した住宅で新し生活がスタートします。この他にも多くの自治体や企業が連携して職業訓練、語学教育などの様々な支援策を実施しています。東京都行政書士会でもウクライナ避難民の在留手続きを支援しています。


 今回の対応の特徴は“難民”ではなく“避難民”と表現されている点です。つまり、条約難民とは全く別の方法であり、ウクライナ避難民のための特別な対応だと言えます。なぜなら、「難民条約」での定義は、「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会的集団に属するなどの理由で自国にいると迫害を受けるか、あるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」とされているからです。ここには今回のように“戦争・紛争のために国外へ逃れた”という理由が含まれていません。「難民条約」の定義の運用は加盟国にゆだねられていますが、日本は言葉通りの狭い定義で運用する傾向があります。そのため、今回の場合には条約難民に該当せず十分な保護ができない可能性も生じます。2022年4月7日には「準難民」の制度創設を目指すとの報道がされましたが、これは今後も同様のケースが生じた場合を想定しています。


 今回の日本政府のウクライナへの支援は、約240億円の援助、支援物資の搬送、そして、“ウクライナ避難民”の受入れへと続いています。避難民の選定基準、日本での語学習得、就労支援など多くの課題が指摘されていますが、具体的で迅速な支援の実行を最優先で取り組んだと言えます。


5.難民受け入れの課題

 今回の“ウクライナ避難民”の受入れから、今後の難民受け入れの課題が見えてきます。


 “条約難民”の定義の見直しや「準難民」制度の創設はもちろんですが、ウクライナ以外の他国の難民申請者とのバランスを取ることです。世界には約7000万人の難民がいると言われています。日本にはアフガニスタン、ミャンマーなどの難民申請者が多く、そのすべての方に“ウクライナ避難民”と同じ対応が取れるわけではありません。例えばミャンマーの場合、日本での滞在は「特定活動」(1年)ではなく(6か月)が基本となり、就労も可能ですが外国人留学生と同じく週28時間の制限があります。これは、不法就労の手段として難民制度を悪用するケースが増加しているためです。国や人ごとに異なる状況を受けとめ、他国との差をどのように埋めるかが課題となります。


 また、日本社会での難民受け入れの土壌づくりも課題となります。難民申請数は今後も増加すると予想されます。その際に日本社会としてどのような姿勢で応じるのか、現状ではここがはっきりしていません。難民の受入れにはメリットとでメリットがあります。メリットには日本の国際社会での信用力・発言力の向上、それに、少子高齢化社会における働き手としての期待などがあります。デメリットには難民受入れコストの増加、日本社会での文化的摩擦から生じる社会的孤立、犯罪の増加、テロの可能性なども考えられます。いずれにせよ、根本となる難民受け入れに対する姿勢を確立し、それを日本社会に浸透させていくことが必要です。日本がアジアのリーダーとして難民の受入れを通した国際貢献や人道配慮を行うことはもちろんです。それに加えて受け入れた難民を新しい仲間として捉えて、調和と活力のあるグローバル化に向けたモデルケースを作り近隣のアジア諸国に示すことが求められています。


 今回は日本の難民受け入れについて解説を致しました。日本社会の今後の難民受け入れについてご自身の考えをまとめる良い機会にして頂ければと思います。


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